コンクリート表面保護工の評価


1、コンクリート保護工法の目的

 土木工事におけるアセットマネジメント手法が採用され、土木構造物の長命化工事が国土交通省の主導で 全国的に行われている。この中で、劣化したコンクリート構造物の補修工法が多数開発され、さまざまな 工法が試工されている。あまりにも多様化されたために、本質の議論がどこかに忘れ去られ「性能」規定が 設計書に織り込まれ、メーカー各社が「スペックイン」を目指して競争しているのが現実である。


  コンクリート保護工の本質は、
  1. 鉄筋の不動態被膜の保護もしくは再生
  2. アルカリ骨材反応等によるコンクリート及び骨材の膨張の抑止
  3. 凍害による表面剥離の抑止
 錆による鉄筋の膨張・爆裂、アル骨反応によるコンクリートの膨張、凍害による表面剥離を抑止出来れば、
「剥落防止」工を行う必要は本来必要がないと考えられる。



2、有機系塗装による保護工法

 有機系塗装工法は無機系ポリマーセメント塗布工法と並んで、保護工法として最も古い歴史を持ってきた。

 この考え方は、コンクリートに外気から供給される劣化因子(水、塩化物イオン、二酸化炭素、ガス等)を遮断し、 美観の向上も実現するというものである。
欠点は
  • 有機系の特徴である紫外線劣化から自由ではなく、柔軟性のあるアクリル・ウレタン、エポキシ等の保護材を、 耐候性が比較的高いフッ素塗料で保護する工法が採用されている。このため高額になる。
  • コンクリート中の水蒸気を封じ込めてしまうので、施工時期によってはブリスタリングを起こし、 コンクリート表面と塗膜の間に滞水層を形成する場合がある。
  • 前記と関連するが、劣化したコンクリート表面と塗装面の付着はトルエン系のプライマーによりものが多く、 コンクリートに浸透するわけではないので、付着性能は良くない。
*RC床版に行われていた有機系保護工。施工後10年。一部滞水。アクリル系と思われ、
回転系ブラシ等に廃材が絡み付き「ケレン」は極めて困難。2次補修時には阻害物になっている。
  • 有機溶剤を使用するので、気泡が無数にあり、そのために多層塗りを必要とする。
    ※逆にこの多孔性を利用して「水蒸気透過性がある」とした製品も存在する。 しかし当然のことであるが、塗膜の劣化速度、二酸化炭素の透過性抑制にも問題を生じる。
      アイゾールEX
  • 飛散防止のために塗布作業は有機溶剤中毒の危険があり、適切な管理を必要としているが、 実際上は全く対策が取られていない。


3、有機系塗装による『剥落防止』工法

  •  有機系塗装材の特徴・欠点を前提として、『剥落防止工法』が行われている。ここでは、補強材である炭素繊維、 アラミド繊維工法は論じない。
  •  有機系塗装材の特徴である「伸び率」に着目し、載荷重と繰り返し荷重、振動によりコンクリートが劣化したとしても、 被膜で覆い砕片の剥離、落下を抑えるという工法であり、ビニロン、テフロン、PP等のフィルムをコンクリートに張り、 エポキシ系樹脂で固め、紫外線への耐候性を目的としてフッ素系塗装を行うものである。
  •  10年~15年で劣化することは否めない。早めに上塗りを再塗装すれば寿命は延びると思われる。

4、ポリマーセメントモルタルによる保護

  • コンクリートの劣化部分の補修材として圧倒的な役割を果たしている。速硬のセメントにビニロン、 硝子繊維等の繊維を入れ、速硬性と強度を高めたもの。
  •  付着力はそれほど高くない。エマルジョンで補完する。
  •  セメントであるので、透水性は一定にある。

5、含浸剤による施工方法

 元々、有機系、無機系ポリマーセメントの結果が思わしくないので、開発されてきた。
 ケイ酸ナトリウム、ケイ酸リチウム、亜硝酸リチウム等のコンクリート改質を目的とするものと、 シラン系のように撥水を目的とするものに大別できる。

 この中で、鉄筋の防錆性が高いのは亜硝酸である。亜硝酸酸リチウムは、混合物であり、 リチウムイオンがコンクリートを改質し亜硝酸が不動態被膜を回復することを目的としている。 高価なのと環境破壊性が一定にあるので、橋台やカルバート等構造物背面から水分が供給され続ける悪条件下でなければ、 使用は控えるべきではないか。
 ケイ酸ナトリウムはアルカリ付与を目的として採用されてきたが、アルカリ骨材反応のある構造物への使用は 控えるべきと考える。
 含浸系のものは、既設コンクリートの状態に大きく作用され「含浸量」「含浸深さ」等は、目安に過ぎない。又、 効果も一定ではありえない。その意味で、「使用量管理」で行われている出来形管理では不十分と言わざるを得ない。

 極端な例はA社の製品であり「600g/㎡を上塗り4回」としているが実際は蒸発浮遊落下等のロス、浸透したかどうかの確認は 全く行われていず、空缶検査のみであるので、施工業者には妙に人気があるものもある。
 シラン系含浸材の特徴は、撥水性とモノマーもしくはオリゴマーで分子が小さいという点にある。

 「表面含浸材によるコンクリートの透水抑制効果に関する研究」(平成19年清水建設田中博一ら)においても 中性化抑止効果はほとんどないとされている。

 シラン系は分子が小さいためにコンクリート微細孔中に浸透しやすいが、コンクリートに定着しない。 微細孔はほとんど閉塞されないので、水蒸気も二酸化炭素も透過し、透水抑制効果は水が表面張力によって肥大化するので コンクリート中に浸透できず実現される。

 シランの効果を持続させるためにメーカーはそれぞれ技術競争を行っている。たとえばアミノ基を添加して立体障害を 起こさせ、浸透しやすくしたもの[公表しているのはプロテクトシル]粘性を与えた混合物で定着性を高めたもの [マジカルリペラ―]よくわからないが「アルカリ環境では樹脂化する[ニュースパンガード]
 ※既設コンクリート表面は中性化しているのであまり意味はない。
 ※※、プロレクトシルは「鉄筋防錆性」を標榜しているが、既に破壊された不動態被膜を回復する機能があるわけではなく、 又コンクリートの中性化を再アルカリ化させるわけでもない。撥水機能が量的に持続するにすぎない。 実際土木学会の「中性化抑制率試験」では、まったく低レベルである。(一覧表参照)H2OもCO2もバンバン透過するものである。

 結局モノマーで浸透し、空気中の水と反応して樹脂化することに成功したものはパーミエイトのみである。



6、パーミエイトの特徴と弱点

 パーミエイトは、シランの分子結合が高分子化合物になり、分子の隙間の大きさがH2O<パーミエイト<CO2であるので、ナノレベルで、 二酸化炭素不透過、水蒸気透過性能を保持し、紫外線劣化を起こすC-C-C結合を主鎖に持たないので、耐候性に優れ、品質として格段の 安定性を持つのである。
 モノマーで微細孔に浸透して樹脂化するので、細孔を塞ぎ、表面被膜は細孔中に「根を張った」状態になるので付着性能は極めて高い。 又、浸透している状態を確認後、上塗りを行うので必要量が明確に分かる。

 弱点は、基本的に硝子であり、硬度は高いが、引張には弱い。(ひび割れ追従性は低い)しかし、既設コンクリートは当然初期の温度ひび割れ、 表面乾燥ひび割れは終息しており、振動による劣化が主原因である。逆に、クリアーを塗布すれば構造上の床版等の劣化は発見しやすい。



7、結語

 ①コンクリート保護工は、
  1. 鉄筋の防錆処置
  2. 断面修復工、ひび割れ注入工
  の前処理を前提とする。

  しかし、コンクリートはもともとひび割れを無数に内包する構造物であり上記の作業だけでは、十分とは言えない。
  そこで、表面保護工を行う必要が生じる。

 ②床版等の薄い鉄筋被りの少ない構造物においては、亜硝酸リチウムを200g/㎡程度塗布し、パーミエイトで封孔するのが最も適切な対処方法と考える。


 2011年11月

㈱大昌エンジニアリング
代表取締役 太田忠良