安全パトロール実施報告書

 

○○トンネル(美作岡山道路)

安全パトロール実施報告書 2012年9月15日

                              KSBK鳥取支部長

                              労働安全コンサルタント

                                    太田 忠良

[初めに]

  当報告書は、平成2495日に△△JVの協力で行われたKSBK現場パトロールの報告書であり、筆者は工事当初 からの計画に携わってきた者ではなく、いわば通りすがり的な視察であるので、十分な分析とは言えない。「気が付いた ことの列記」 にすぎないことをはじめにお断りします。

[工事の段階]

  掘削は高低差の高い方からNATM工法で進められ、当日の工事場所は掘削坑口から486/616、トンネル上部は軟 弱地層、1/3程度より下方は風化花崗岩質の硬質地盤であり、補助工法として長尺鋼管フォアパイリングによる注入工 併用区間に入る予定である。

 また、坑口から40m程度までは二次覆工を行っている。

[本工事の危険場所・危険作業]

1、落盤・土砂崩落・・・・重篤度10

2、ガス爆発・・・・重篤度10

3、酸素欠乏症・・・・重篤度10

4、重機災害・・・・重篤度10

5、特に、モルタルガンなどの高圧噴射器による災害

6、坑内における交通災害

7、転落・墜落

8、じん肺、強アルカリ環境下における健康災害

9、夜間作業に準ずるストレス・健康災害

10、その他

[工事設備と維持管理]

1、掘削、ズリ出し、吹付など作業用機械は別に記す。

2、空調はφ15002000/min。掘削断面積約70㎡、延長最大616m最大気積約45000㎥であるので、十分な空気量と判断してよい。

  ただし、夏場は孔外の気温が高く空気は、坑内から坑外にゆるく流れるが、冬季は坑内気温が高くなるので、内部に乱気流が発生する。いずれにしても酸素測定は必要であり、実施されている。

改善提案:酸素濃度の測定器はそれほど高額ではないので、作業場所マイナス20m程度と通路真ん中の壁面に設置し、誰でも見える状態で管理することが望ましい。

構内中間部に設置するのは、軽油・ガソリンを使用する車両機械が通行するので、切羽とは違う値が出る場合があるからである。また、フレッシュコンクリートは酸素を「食べる」ので吹付前後の測定値は比較検討を必要とする。

 送風機

 

3、空気呼吸器(緊急救命器具)

   

    切羽から約20m程度?に避難器具置き場が設置されており、12組の空気呼吸器が常備されている。

改善提案1:切羽作業員分は十分にあり、照明も十分に見えるが、非常用電灯がBOX

内部にしかなく、非常時は闇になるので、バッテリー式の非常灯をボ

ックス外部に設置し、安全に装着ができるようにすべき。ヘッドラン

プだけでは装着しにくい。

改善提案2:空気呼吸器は救助側にも必要であり、切羽だけに装備が集中している

のは良くない。坑口の(たとえば)空調機架台下のスペースを利用す

るなどの対策が必要。

また、安全訓練で是非装着訓練を実施してほしい。切羽作業員だけで

はなく、DP、重機作業員など関係する全員が習熟するようにお願いし

たい。

改善提案3:連絡監視体制

      坑内・切羽と現場詰所は基本的に電話連絡であるが、今日ではウエブ

カメラ等も安価なので、数か所に配置し、常時坑外からの監視を容易

にさせるとさらに良い。

できれば、発注側が積み上げ仮設費として計上することが望ましい。

2次災害を断じて発生させないためにも、リアルタイムで状況確認でき

ることは必要である。

4、環境対策

    掘削時の出水は現在ほとんどなく10/min程度。実際には60/minの能力を備えた、浄化装置が配置してあり、中間タンクから送水・浄化している。

基本は高分子ポリマー+PACで吸着沈殿濾過。

    しかし今後は破砕帯、山の堆積層を掘削するので、出水量が突然増加する可能性は否定できない。日々確実に点検して使用してほしい。

             濾過装置

 

5、安全通路、坑内交通ルール

    坑内での交通災害防止は、特に重視すべきである。また、切羽作業と二次覆工が並行作業になる工程下では特に重要である。

    元労働基準監督署長山下氏が述べられたように、「山陽新幹線建設工事においてトンネル工事での死亡災害は17名。(1970年代)今日ではNATM工法が汎用されるようになって、落盤・崩落、発破関連災害は激減したが、交通災害は依然多い」のである。

    その理由は、

     ⅰ、幅12m程度のスペースに作業用重機械、プラント、資材などを配置しなければならず、狭隘な中でズリ出し等の車両が通行すること。

     ⅱ、どうしても照度は(安衛法上はクリアーしていても、充分とはいえない。       

       これは特に、2次覆工前は、照明やヘッドライトの明かりが地山に吸収され
   

      補修前の状況と、N8.5で塗装後の照度の違い

 

      反射がないことによる。また、照明器具は作業中に生じるおびただしい粉じ

んによって覆われるため、機能低下を生み出していく。

     ⅲ、さらに考慮しなければならないのは、視細胞には2種あり、明るいところ

で働く錐体と暗所で働く杆体があり、瞬時には切り替わらないので外から坑

口に入った瞬間は視細胞を慣らす必要がある。できれば、横断部で車両一時

停止を必ず義務付けることによって、この種の災害は防ぐことができる。

ⅳ、切羽作業、運搬作業、2次覆工の作業が一定に独立しているために周囲に対す

  る注意力が散漫化する瞬間がうまれやすい。

ⅴ、舗装路でなく、車両の足元が必ずしも良くなくハンドルを取られやすい。

 などである。

    そのために、作業区分、坑内レイアウトは安全の基礎をなし、坑内ルールの制定と遵守の徹底が生命線をなすといってよい。

        

              

    「工事当初は、坑口近くにある横断歩道はラインで明示してあったが、車両走行によって、消えてしまった」

肝心なのは維持管理であり、

 ⅰ、気が付いたらすぐに直す

 ⅱ、定期的に委員会で点検する

の二本立てで行い、予算の背景と、作業員の自覚がポイントになる。

    坑内ルールは、制限速度・徐行だけではないはずで、すれ違い不能時は何処で待つか、車両は左側通行か、中心部を走行するかなども、決めて表示するべきではないか。

6、看板・標識・標語の維持管理について

    ジャンボによる掘削粉じん、1次覆工コンクリートの吹付時、ロックボルト挿入など、現場は粉じん大量発生場所である。じん肺対策は当然として、標識が見えるように常時清掃・「声だし」活動を重視してほしい。

    

    配電盤、消火器も、照明が近くに配置されているが、反射板を張るなどすればより明確になる。

  

7、車両の中にものをおかず、足元はキチント清掃する。

    重機類は比較的よく清掃されている。

  

     

 

    作業用車両内部

     

    助手席にフレキシブルパイプ、空き箱などが詰め込まれている。

    理由は粉じんを被りたくないもの、頻繁に交換する消耗品を「管理する」場所を

兼用していると思われる。

改善提案:作業用小型コンテナを設置する。

 助手席がこういう状態で、運転すれば荷崩れ時に運転のための神経が散漫になり、場合によっては前方不注意、ハンドルをとられる。「一時の仮置き」という言い訳を許さないこと。

8、精神衛生の管理

    2交替勤務。常時保護具着用で事実上ほぼ夜勤同等の過酷な勤務形態で作業しているので、健康管理、特に精神衛生上の管理を徹底してほしい。

    公共事業費の削減と叩き合いの結果労務費単価が低落傾向にあり、専門技術を持つ職人が収入を確保するために残業を志願することは避けられません。

    それだけに、ストレスチェックなどを必要に応じて行い、医師の判断を基礎に程度な休息、息抜きを計画の中に入れていただきたいとおもいます。

 

9、切羽

    

  技術上のことについていう立場にはありませんが、今後軟弱地盤⇒土被りの小さくなる計画なので、状態観察を丹念に行い安全施工をお願いしたいと思います。

  東北新幹線では、土被り4mの工事で、現場責任者の判断で「全員退避」を指示した30分後に崩落が起きました。現場の責任者は「工事を進める」判断も大事ですが、「止める」勇気も必要です。経験と学問に裏打ちされた適切な判断で竣工を迎えるようにお祈りいたします。

                                                            以上

                                                              2012/9/15